1980年代に活躍したトレーダー兼プログラマーのラルフ・ビンス氏をご存じでしょうか。
彼は資金管理の専門家で、トレード手法の優位性を最大限に活用しつつ、
破産リスクを最小限に抑える方法を開発、提供した人物として現在でも多くの業界人に知られています。
そんな彼が行った「ラルフ・ビンスの実験」というものがあります。
博士号を取得している40人にゲームをしてもらう実験なのですが、
そのルールは以下になります。
- 箱の中にあたりが6本、ハズレが4本入っている
- 当たりを引いたら賭け金は2倍になるが、ハズレを引いたら賭け金は没収される
- 元手1000ドルから始め、1回に賭ける金額は自由
- ゲームを100回繰り返す
非常にシンプルですね。
しかも、見て分かる通り、これは期待値がプラスのゲームです。
計算してみると、
勝率が6割なので、仮に1回毎に100ドル賭け続けたとしたら
60勝⇒6000ドルの利益、40敗⇒4000ドルの損失
期待値=6000/4000=1.5
となります。
こんなに期待値が高くてプレイヤーに有利なゲームは、現実世界にはいくら探しても存在しませんが、
どのような結果になったと思いますか?
このゲームでは40人の参加者のうち、資産を増やしたのは僅か2人だけしかいませんでした。
博士号を持つほどの天才が期待値プラスのゲームをしたんですよ。
普通に考えれば参加者全員が資産を増やしてもおかしくないはずです。
にも関わらず、実際には2人だけしか増やせなかった…
その原因は何だと思いますか?

なぜ博士号を持つ天才たちが資産を減らしたのか
参加者の1人は、毎回250ドルずつ賭けていました。
しかし運悪く3回連続で負けてしまい、残金は250ドルだけになってしまいました。
ここからの挽回はほぼ不可能と言ってよいでしょう。
別の参加者は、最初100ドルから始めました。
しかし負けてしまったので、次は200ドルにしたところ、またしても負けてしまいました。
「2連敗したのだから次こそは勝つだろう」
と思い、今度は400ドルにしたところまたしても負けてしまい、残金は300ドルに。
ここからの挽回もほぼ不可能と言ってよいでしょう。
参加者のほとんどはこのような賭け方でゲームに挑んでいましたが、何が問題だったのでしょうか?
このゲームが示唆するものは、
“ポジションサイズの重要性”
です。
計算してみると分かりますが、
勝率6割のゲームで3連敗する確率は6.4%です。4連敗する確率は2.56%です。
確かに低いですが、普通に起こり得る確率です。
にも関わらず、
3連敗、4連敗を想定しないほどの大きな金額を賭けてしまったことが最大の敗因です。
もしも、3連敗、4連敗を想定していたら
250ドル、400ドルなんて大金は賭けないでしょう。
そうです。あまりにもポジションサイズが大き過ぎなんです。
期待値がプラスのゲームならば、勝率が6割のゲームならば、
大数の法則に近づけるために、できるだけ多くのゲームをこなしていかなくてはいけません。
その為には、
“資金に対しての賭け金を必要最小限なほどに小さくすべき”
だったんです。
博士号を持つほどの天才が何故???と思いますが、
彼らは理性的な判断よりも感情的な判断を優先させたわけです。
つまり、欲に目がくらんで最初から大金を賭けてしまった。
そして、負けが続くと「次こそは勝てるはずだ」と更に大金をつぎ込んでしまった…
このゲームの1回1回は全て独立事象です。
前回の勝ち負けは次の勝ち負けに影響を与えません。
だから、「次こそは勝てるはずだ」という思考自体が間違い、
いわゆる”ギャンブラーの誤謬“でしかありません。
(この言葉の意味が分からない人はネットで調べてね)

トレードで生き残るための資金管理の絶対条件
トレードでも同じことが言えます。
期待値がプラスの手法を用いていたとしても、ポジションサイズが大き過ぎてしまったら
確率的に起こり得る3連敗、4連敗(もしくはそれ以上)で当たり前のように資金が大幅に減ってしまいます。
だから、連敗しても資金が大きく減らないように
ロット数は必要最小限なほどに小さくすべきなんです。
では具体的にどのくらいのロット数で挑めばよいのか…
これに関しては、各トレーダーの性格や資金量にもよるので、
絶対的な答えがあるわけではないですが、一般的な答えとしては…
“1回のトレードで負けた場合の損切り額を総資産の1%以内に抑える事”
これが多くのトレーダーに当てはまる適切解と言えるでしょう。
つまり、100万円の証拠金を入れていたら、1回のトレードでの損切り額は1万円以内になるように
ストップまでの距離からロット数を調整しなければいけないわけです。
具体的な計算方法は過去の記事
「トレードする際の最適なポジション数(ロット数)の計算方法」
を参考にしてください。
(まぁロット数に関しては統計学的に突き詰めれば、複雑な計算式を用いて最適解を求めることもできますが、そこまでする必要はありません)
1回のトレードで1万円の損失であれば、3連敗での残りの証拠金は97万円、
4連敗での残りの証拠金は96万円であり、この後幾らでも挽回可能です。
しかし、ロットを大きくし過ぎて1回で10万も損失してしまうと、
3連敗で70万円、4連敗で60万円となってしまい、ここからの挽回は相当に困難です。
たとえ期待値がプラスの手法を用いていたとしても、
連敗に耐えられないほどの大きなロットで賭けてしまったら、
どんな優秀な手法も無意味になってしまうんですね。
トレードに必要なのは、3M[Mind(メンタル),Method(手法),Money(資金管理)]です。
「ラルフ・ビンスの実験」の二の舞にならないよう
手法だけに偏重せず、メンタルと資金管理も同時に学習しましょう。





