ある日の出来事…
いつもどおりチャートチェックをしていたら
ドル円の1時間足チャートが高値切り上げ、且つ、安値切り上げの綺麗な上昇トレンドを描いていた。
そこでこの日は、ドル円をメインターゲットにして
下がったところで押目買いする戦術を立てた。
しばらくすると、ドル円は思惑通りに押目を付けてくれて
そこから反転上昇の兆しを見せてきたので予定通りにロングエントリーした。
しかし…エントリー後はなかなか上げてくれず横ばいのまま。
そうこうしているうちに上値が重たくなり徐々に下げてくる展開に変化。
マイルールであれば損切りすべき位置にまで下げてきたが、
RSIを確認すると明らかに売られ過ぎ状態。
「さすがにここからは反転上昇するでしょう」
と判断し、もう少し様子見をすることに。
しかし…こちらの期待は裏切られ、価格は更に下落し、
直近安値も割ってしまい、それがきっかけなのか、
ストップを巻き込むような急落に見舞われてしまう。
「ヤバい!どうしよう?!何とかしなきゃ!」
想定外の含み損に気が焦ったが、どうしても負けたくなかったので、
「そうだ!こんなに一直線に下がったんだから、
ここからの反転上昇も早いに決まっている」
と考え、ナンピンでロングポジションを追加することにした。
その後は…
こちらの期待通りに価格は反転上昇!
ナンピンしたことが功を奏して含み損も徐々に減少。
最初に取ったロングポジションはまだ含み損状態だったが、
ナンピン分のポジションと併せた合計ポジションでは小幅にプラス収益だったので、
“利食い千人力”とばかりにまとめて決済、結果的には勝利で終わった。
「急落した時はヒヤリ!としたけど、
ほとんどのケースでは売られ過ぎた後は反転上昇することが多い。
良いタイミングでナンピンすればトータルポジションでは勝つことができる。
これが私の長年のトレーディングに基づく経験則かな」
ハインリッヒの法則とは
労働災害や事故の発生確率を統計的に導き出した
「ハインリッヒの法則」をご存じでしょうか?
ハインリッヒの法則とは、
“1件の重大事故が起きる背景には29件の軽傷事故と300件の無傷事故が隠れている”
とする統計的な法則です。
つまり、重大事故がどのくらいの割合で発生するのかを表すもので、
これら上記の数字を取って「1:29:300の法則」とも呼ばれています。
要するに、
いきなり何の前触れもなく重大事故が起きるのではなく、
その前には、かすり傷や打撲などの軽傷事故が29件ほど起きたり、
事故には至らなかったが、ヒヤリとするような危険な出来事(無傷事故)が300件ほど起きている、
とするもので、職場の安全意識を高めるための指針として用いられています。
建築業や製造業、医療など様々な現場で労働災害を防ぐために用いられるだけではなく、
車の運転や家事などにも当てはまる指針と言えます。
例を挙げると…
ビルの建設現場で従業員が手に持っていた器具をうっかり滑らせて落してしまい、
その下を歩いていた通行人に当たりそうになった。
車の運転中に携帯が鳴ったので少しだけ目を離してカバンから取り出した瞬間に、
たまたま通行人が飛び出してきてぶつかりそうになった。
高い位置に置いてあった品物を脚立に乗って取ろうとしたら
脚立がグラついて転倒しそうになった。
挙げればキリがないほど世の中はヒヤリで溢れています。
しかし、このようなヒヤリの積み重ねが軽傷事故につながり、
ひいては重大事故にもつながっていきます。
そこで、なぜこのようなヒヤリ(無傷事故)が発生してしまうのかを徹底的に分析し、
従業員は自分の行動を見直し、対策を立てて、それを従業員全員で共有することが重要です。
そうすれば、職場全体の安全意識が高まり、重大事故のリスクも低減します。
重大事故を起こしたくないのなら、
普段からヒヤリとするような無傷事故を起こさない心掛けが必要なんですね。
ヒヤリの先には為替市場からの退場が待っている
そして、この「ハインリッヒの法則」はトレードにも当てはまります。
冒頭に書いたナンピントレードの事例ですが、これがまさに無傷事故の典型例です。
普段、ナンピンなんてやらないのに、
気の緩みなのか、楽観していたのか、前回のトレードで負けたためなのか、
ちょっとだけ「勝ちたい」という欲求が強くなり、
マイルールを破って損切りを先延ばしにしてしまう…
その後の急落で目を覚まし、急いで損切りすれば、
通常よりは損失額は多くなってしまうが、軽傷事故で済ますことができたでしょう。
しかし、普段とは異なるトレード状況にまともな判断が下せず、
「勝ちたい」という欲求のままにナンピンという戦術をとってしまう。
その結果、価格は戻ってくれて、問題なく利益確定まで持っていくことができたが…
でもこれって単なる高確率の幸運でしかありません。
「運が良かった」なんて楽観的な心境で終わらすことのできない
ヒヤリとした無傷事故に相当します。
「1:29:300の法則」とは、まさに言い得て妙の核心を突いた表現で、
ナンピンに限らずトレード全般でもこのような比率になるでしょう。
たとえマイルールを持っていたとしても、
自分を律してそのマイルールを忠実に永続的に実行できるトレーダーは少ないです。
必ずと言っていいほど、いつかどこかでマイルールを破ります。
その結果、普段よりも損切り幅が大きくなって
決済するハメになることもあるでしょう(軽傷事故)
時には、損切りの決心がつかず、決済を後回しにして塩漬けにしていたら
価格が戻ってくれて決済することもあるでしょう(無傷事故)
しかし、軽傷事故を何度も繰り替えし(29回)、
無傷事故を何度も繰り返していたら(300回)
そのうち、取り返しのつかない重大事故(1回)を引き起こします。
ナンピンなんてまさにその典型。
ナンピンしていたらそのほとんどのトレードは無事に生還できますが、
高頻度でヒヤリを繰り返します。
しかし、300回程度もヒヤリを繰り返していたら
いつかどこかで必ず価格が戻らない時が来ます。
そして、巨額の損失を被り、市場から去っていくでしょう。
最初は些細な出来心だったのかもしれません。
しかし、マイルールを破ったという事実は、いずれ大きな損失として自分に返ってきます。
では、このような重大事故に遭わないためにはどうすれば良いのか…
それは先に書いた建築現場や医療現場と同じです。
なぜヒヤリ(無傷事故)が発生してしまうのかを徹底的に分析し、
自分の行動を見直し、再発しないように防止策を考えておくことです。
つまり、トレードという現場では、決してマイルールを破らないことです。
事前に決めた損切りは必ず実行することです。
事前に決めたロット数を増やさないことです。
重大事故(退場)を起こしたくないのなら、
普段からヒヤリとするような無傷事故を起こさない心掛けが必要なんです。
「運が良かった」で終わらせないでください。
無傷事故も軽傷事故も重大事故も
自分の意識の持ち方で限りなく0(ゼロ)に近づけることができます。